刺鍼事故―処置と予防本ダウンロード

刺鍼事故―処置と予防

2020-08-16T14:01:46Z, , 劉 玉書


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刺鍼事故―処置と予防本ダウンロード - 内容紹介 中国で1998年11月に出版された『鍼刺事故・救治与預防』中医古籍出版社の翻訳本。著者は1988年に出版された『鍼刺事故類案選析』という本を補足して、本書を作った。神経系、呼吸器系、循環器系、消化器系、泌尿生殖器系、視聴覚器官に対する間違った刺鍼例を列挙し、それによってもたらされる症状、ミスをしたときの処置方法、重要な臓器を刺鍼してしまったときの症状などが述べられている。約399ページ。緑色の飾りっ気のない本です。 著者からのコメント 北京堂鍼灸のマニュアル書にしていた本。だからこれまでは、世間に30冊程度しか出回ってなかった。昔、TAOという鍼灸雑誌に連載していた内容だが、より優れた本だったので翻訳し、これを北京堂のマニュアル本として、弟子に読ませてきた本。これを読んだ後、人体の輪切り本を勉強し、それから筋肉の書物を勉強して、そして神経系の治療や小針刀など、臨床的な治療方法を勉強します。いわば鍼治療の入門以前の内容。筋肉の本はともかくとして、この本と、輪切り本をマスターしなければ、本格的な治療には進めない。内容は、マヌケな鍼灸師たちが繰り広げる大チョンボの数々。結構笑えます。恐らく日本に紹介された本の中で、これと似た本は出版されたことがなかったでしょう。治療の本ばかりで。しかし治療の本ばかりあっても、安全に刺鍼できなければ、何もなりません。ほんとうは1998年頃から、こうした本を出版したいと思っていたのだが、どこの出版社にも取り合って貰えず(刺鍼事故の本など前例がないから)、鍼灸関係の出版に疎い三和書籍を説得して出しても貰った本。これで私も、弟子たちにパソコンで印刷し、製本機で製本しなくてよくなった。これを買いなさいで済むようになったから、随分と楽になりました。なお、血圧の単位をkPaにしていてmmHgではないのですが、7.5を掛け算すれば、だいたいmmHgの単位に直ります。さあ、中国人の先生達が繰り広げる起こるべくして起きた結果を、あなたも御覧になりませんか?結構笑えます。また私が勝手に、もともとなかったイラストを付け加えたりしているので、原本の文字ばかりだった文章と較べて、かなり軟らかで安らぎのある本となっています。この本を読めば、北京堂がどうして、あのような治療を始めたのか理解できると思います。そして勘に頼らない刺入ができるようになると思います。まあ中国の本ではありますが、私の周りの島根でも、似たようなことは続々と起きているようです。患者さんに聞いた話しですが。 抜粋 20.風池を取って、くも膜下出血を起こした事例I 某男性、22歳。頭痛のため刺鍼治療した。風池穴を取り、深部へ刺入したところ、患者は急に後頭痛を訴え、それが頭全体および後頚痛へと広がり、背骨を引っ張られるような放散感と嘔吐を伴う。頭痛が徐々にひどくなって、頭部を動かそうとしなくなり、3日後に入院した。 検査:意識ははっきりしており、頚部の強直とケルニッヒ徴候が陽性以外、異常はない。腰椎穿刺した髄液圧は1029.7~1422.0Pa、白血球7~10×106/L、赤血球25600~18000 ×106/Lだった。鎮静、鎮痛、止血および頭蓋内圧降下などで処理し、2ケ月後に正常に回復した。───史正修『人民軍医』1979;(6):319 風池は足少陽胆経の穴だが、手足の少陽と陽維脈の交会穴でもある。穴位は脳空下の髪際陥中にある。局部解剖は、後頭骨下際で、胸鎖乳突筋と僧帽筋が停止する間の陥凹にあり、これは後頭三角の頂点である。後頭動脈と後頭静脈、小後頭神経と大後頭神経が分布する。 鍼法と主治:脳空穴直下を指で圧し、後頭骨の下にある陥凹が風池である。ちょうど後頚筋の外側陥中に当たる。鍼は0.5~0.8寸。頭痛や片頭痛、頚項部の強直、目尻が赤くなって痛む、羞明して涙が出る、鼻血、気発の耳塞、腰、背、肩の痛み、脳卒中で喋れない、熱病で汗が出ないものを主治する。 この例も風池の刺入が深過ぎ、患者は急に後頭痛となり、続いて一連の反応が現れたが、これは脳脊髄を損傷したことを意味している。 21.風池を取って、くも膜下出血を起こした事例II 某女性、19歳。両目の視力が悪くなったため診察にきた。両側の風池穴へ刺鍼して1時間後、激しい頭痛、悪心、嘔吐などを起こして入院治療した。 急性症状の容貌で、呼吸は26回/分。後頚部が強直し、ケルニッヒ徴候は陽性。白血球13.6×106/L、好中球0.87、リンパ球0.13。尿蛋白(+)、尿糖(2+)。腰椎穿刺:血性髄液、圧力2569.4kPa、赤血球26900×106/L。外傷性くも膜下出血と診断した。止血薬、抗生物質、鎮静剤などで治療し、徐々に好転して20日で退院した。─────劉生祥『山西医薬雑誌』1980;(6):53 この例では両側の風池に刺鍼したが、刺入方向と深度が間違っているため鍼尖が大後頭孔から入り、延髄の小血管を傷付けてクモ膜下腔が少し出血したものである。それで1時間後に一連の脳膜刺激徴候が出現した。正確な診断と迅速な治療によって病状は治まり、健康になった。 風池穴を取るときは、2つの問題を考慮しなければならない。一つは位置の問題だが、古来から統一見解がない。『鍼灸甲乙経』は「コメカミの後ろで、髪際の陥中」と言い、『明堂』は「風府と相対するところである。その外側それぞれ2寸」と書き、『折衷』は「督脈瘖門の口の傍ら、髪際」という。日本の山崎宇治は「乳様突起の後方」と言い、山本氏は「乳様突起の先端と後頚部正中の中間」という。穴位の位置が統一されていないので、事故が起きるのは推して知るべしだ。本書では「脳空の下で、髪際陥中」としている。次に刺入方向と深度の問題である。承淡安は、風池は対側の眼窩に向けて刺入すると主張し、『鍼灸学』は対側の耳垂へ向けて刺入するという。正確には鍼尖を鼻尖に向けるべきで、0.5~0.8寸だけ刺入できる。 22.風池を取って、くも膜下出血を起こした事例III 某男性、17歳。患者はめまいと頭痛が10日以上続き、この村の衛生室で刺鍼治療をした。するとすぐにめまいがして倒れ、後頚部が痛みだし、嘔吐した。家で数日治療したが、頭痛と噴出嘔吐が止まらないため、県の病院へ送られて診察治療した。腰椎穿刺で血性髄液だったため、わが院に転院した。患者は毎年夏になると、めまいと頭痛が始まる。身体検査:意識ははっきりしており、血圧は16.0/9.3kPa、後頚部は強直し、ケルニッヒ徴候は陽性。ほかに異常はない。入院してベッドで安静になり、鎮静鎮痛、止血、頭蓋内圧降下などの治療し、ほとんど症状が消えたので、薬を持って帰って治療した。─────陸彬如『河南赤脚医生雑誌』1980;(12):17 めまいと頭痛が10日以上続いているが、これは軽くて浅い症なので、太陽、頭維、合谷などを取って普通の治療をすべきである。医者は風池だけを取り、刺入が深すぎて刺激も強すぎたため、すぐに「失神」した。これは「軽い病に重い治療をする」典型的な誤治である。 23.風池を取って、くも膜下出血を起こした事例IV 某男性、23歳。頭痛が20日以上続き、軽くなったり重くなったりし、薬を飲んでも注射をしても良くならないので、衛生室で両側の風池へ刺鍼治療した。刺鍼後に後頚部の痛みを感じ、頭を回せなくなって、しばらく意識を失い、続いて悪心嘔吐した。某病院で5日ほど治療したが、頭痛や嘔吐が止まらず発熱もあるため、わが院に転院した。入院してみると患者が回復しつつあることが判り、検査すると後頚部がこわばり、ケルニッヒ徴候は陽性、ほかには異常がなかった。数日後の腰椎穿刺では、髄液が淡黄色で、白血球11×106/L、赤血球は数えず、ほかに異常はなかった。入院して微熱が4日続いたが、その後は 体温が徐々に下がって正常になった。ベッドで安静にし、鎮静、鎮痛、抗感染などの治療をおこない、症状は徐々に消えて、入院14日目で退院した。────陸彬如『河南赤脚医生雑誌』1980;(12):17 刺鍼後の徴候や検査から刺鍼によるものと判るが、それほどひどい損傷ではなかったので、適切な治療して回復した。 24.風池を取って、くも膜下出血を起こした事例V 某男性、20歳。神経性頭痛のため風池穴へ刺鍼したところ、急に頭痛がひどくなって入院した。 検査:意識ははっきりしており、体温は36.3℃、脈拍60回/分、血圧17.3/10.7kPa、眼底は正常。脳神経の知覚、運動、反射は正常で、病理反射はなかった。ケルニッヒ徴候は陽性、頚部に抵抗あり。腰椎穿刺:髄液はピンク色で、圧力1765Pa。診断:クモ膜下出血。 入院したあとベッドで安静にし、サルチル酸カルバゾクロム、ビタミンK、索密痛(アミノピリン0.15g、フェナセチン0.15g、フェノバルビタール0.015g、カフェイン0.05g)などの薬物治療をおこない、頭痛は徐々に好転し、頚のこわばりも軽減したが、両側のケルニッヒ徴候は陽性。7日後に腰椎穿刺したところ髄液は薄黄色な透明で、圧力1275Pa。13日後に脳膜刺激症状は消え、治癒して退院した。───史正修『人民軍医』1981;(8):60 軽度の損傷で、対症療法によって満足できる降下が得られた。 25.風池を取って、くも膜下出血を起こした事例VI 某女性、30歳。神経性頭痛により風池穴へ刺鍼した。すぐに激しい頭痛と、悪心や嘔吐が起きて入院した。腰椎穿刺では、髄液がピンク色で、圧力1471Pa。 入院検査:意識ははっきりしており、体温は36.4℃、脈拍60回/分、血圧14.7/8.0kPa 。頚がわずかに強直しており、ケルニッヒ徴候は陽性。脳神経の知覚や運動反射には異常がなく、病理反射はない。診断:くも膜下出血。 ベッドで横になって安静にし、対症療法をおこなう。7日後に腰椎穿刺すると、髄液は淡黄色の透明で、圧力は1275kpa。21日後に治癒して退院した。───史正修『人民軍医』1981;(8):60 この事例では、風池の取穴法が間違っていたか刺入が深過ぎたため、くも膜下出血が起きて頭痛がひどくなった。対象治療と適切な看護をすれば、ふつうは回復する。 26.風池を取って、くも膜下出血を起こした事例VII 某男性、30歳。7年の精神分裂症で、長いこと治療しているが治らない。某工場の診療所で刺鍼治療を受けた。両側の風池を取って、後正中線に向けて斜刺で刺入し、置鍼していたところ、患者が右側の鍼を深部に刺入していたが気付かなかった。30分後に右風池の鍼を抜こうとしたとき、患者は叫び声を上げ、右目が光ったと訴えた。1時間ほど頻繁に嘔吐し、シャックリする。その夜に昏睡状態となり、わが院に転院して緊急手術した。頚部の正中を切開して、環椎椎弓板を減圧し、硬膜を切開すると後頭骨大槽くも膜の右上方に小さな孔が見つかり、そこから血性髄液が外に溢れていた。くも膜を切開してみると、内側に2mLの血腫があり、色はきれいだったが凝固していて、延髄を圧迫しており、小脳も水腫となっている。血腫をきれいにし、硬膜にゴム排液管を置いて閉じた。600mL輸血した。手術後は抗生物質、脱水剤、ホルモン、止血剤などで治療した。数日後に精神症状が好転し、しばらく治療を続けて退院した。─────劉信基『神経精神病雑誌』1981;7(5):317 術者の経験が乏しければ、風池を取ることを少なくするか、取らずに他の穴位を使うようにしたほうが賢明である。それは風池穴の内側上方には延髄があるため、刺入方向を把握してないと、鍼尖が大後頭孔から入って延髄を刺傷するかもしれない(鍼尖を少し下へ向けて刺入するとよい)。 風池穴を取るときの注意点を以下に挙げる。 A.深度:風池穴の深度は、古来から定説がない。『明堂』には鍼0.3寸、『素問・気府』には鍼0.4寸、『銅人』には鍼0.7寸、『甲乙経』には鍼0.3寸と記載され、近代の著作には0.5~0.8寸と記載されたものが多い。私は深くとも1寸を超えないほうがよいと考えている。 B.取穴と刺法である。『鍼灸大成』は「耳の後ろでコメカミの後。脳空の下で髪際の陥中。これを圧すると耳中を引っ張る」とある。現代の著名な鍼灸学家である承淡安は、1955年版の『中国鍼灸学』のなかに「左風池は、対側前面の右眼窩へ向けて刺入する。右風池は、対側の左眼窩に向ける」と書いている。南京中医学院主編の1979年版『鍼灸学』には「わずかに鍼を下へ向け、鼻尖へ向けて斜刺で0.8~1.2寸。あるいは平刺(横刺)で風府穴へ向けて透刺する」と書き、さらに「深部の中央は延髄なので、必ず刺入の角度と深度を把握せねばならない」と続けているが、この取穴ならば妥当である。楼百層は『遼寧中医雑誌』1985;1で「鍼尖は交差させ、顴骨へ向けて徐々に刺入する。つまり患者の左側の風池穴へ刺鍼すれば、鍼尖は右側の顴骨へ向ける。1.2~1.5寸ほど刺入する」と述べている。上海中医学院鍼灸教研組編の『経絡腧穴教程・腧穴分冊』では「風池穴……刺鍼の深さと方向を把握することに注意する。最近では鼻尖に向けて0.5~1.5寸ほど刺入すると主張する人がある。対側の眼窩へ深刺しぁ�はならない。それをやると椎骨動脈と延髄を刺傷する」と警告している。楊元徳は『遼寧中医雑誌』1985;4に「同側の顴骨か眼窩へ向ける。つまり左の風池を刺すときは、左の顴骨か左眼窩に向ける。くれぐれも対側に向けてはならない」と言っている。 風池穴の正確な位置と取穴法は、まず脳空を捜し、それを基にして指で下に推し、頭骨下の陥凹に達したところがその穴である。ちょうど風府と水平の位置にある。だから刺入するときは鍼尖を少し下へ向けなければならず、鍼尖を上に向けたり、操作するとき鍼尖を対側の眼窩や顴骨に向けてはならない。もっとも安全なのは鼻尖へ向け、0.8~1寸刺入する方法である。 27.風池を取って、くも膜下出血を起こした事例VIII 某女性、30歳。患者は眼瞼痙攣で鍼治療する。風池を取って1.6寸刺入したとき、患者は耐え難い痛みを訴え、続いて嘔吐が始まったので、すぐに抜鍼して本院へ送った。 検査:血圧16.0/10.7kPa、体温37.4℃。意識ははっきりしており、後頚部がこわばって、ケルニッヒ徴候は陽性。刺鍼して4時間後に腰椎穿刺すると、血性髄液で、圧力は2550Paだった。臨床診断:クモ膜下出血。鎮静、鎮痛、止血の治療し、14日で治癒した。────包礼平ら『吉林医学』1983;(3):45 眼瞼の痙攣は、もともと大した病気ではない。ふつうは患部局部の腧穴か、合谷を取れば効果がある。しかし、この事例では風池へ深刺している。これは小に大を以って当たるという治療原則違反である。風池穴は、ふつう0.5~0.8寸ほど刺入するが、この例では1.6寸刺入している。結果は「疾は浅いが、鍼は深いので、良肉を内傷した」というひどい事故となった。 28.風池を取って、くも膜下出血を起こした事例IX 某女性、40歳。頭痛のため2日前に衛生所へ行った。風池を取って鍼を刺入すると、激しい頭痛と頻繁な嘔吐が始まり、入院治療した。 検査:血圧18.7/10.7kPa、体温36.4℃。意識ははっきりしており、後頚部は強直し、ケルニッヒ徴候は±。腰椎穿刺:血性髄液、圧力は2059Pa。臨床診断:クモ膜下出血。安静にして止血、鎮痛の治療し、19日で治癒した。───包礼平ら『吉林医学』1983;(3):45 ふつうの頭痛では、風池のような要穴は取らないほうがよい。頭痛には頭維、上星、太陽、合谷などから1~2穴を選べばよく、風池や瘂門のような要穴には刺鍼しないようにする。この例では刺入深度に触れてないが、起こった結果から判るように、刺入が深すぎて起きたものだ。 29.翳明を取って、くも膜下出血を起こした事例 某男性、25歳。不眠や頭痛のため、右側翳明穴に刺鍼した。深部に刺入したとき、全身が痺れて「電気ショック感」や「脳が発熱」、頭がぼんやりしたり頭痛し、全身が怠くなって、悪心や嘔吐がし、後頭痛が徐々にひどくなって嘔吐が止まらなくなった。過去に似たような発作は起きたことがない。検査:意識ははっきりしており、苦痛の表情である。血圧17.3/10.7kPa。臨床検査:白血球13.8×106/L、好中球0.83。腰椎穿刺:髄液の圧力計が1765Paのとき計測を止めた。白血球12×106/L、赤血球23500×106/L。ベッドで安静にさせ、鎮静、鎮痛、止血および頭蓋内圧降下の処置をし、2週間後に症状が消失して退院した。──────王尊禹ら『神経精神病雑誌』1979;(6):319 この例では右側の翳明穴を取ったとだけあり、深さには触れてない。しかし患者の反応を分析すると、少なくとも同身寸で3寸は入っている。なぜなら翳明は側頭部に位置し、刺鍼したとき鍼尖が頚椎外側の棘突起間から脊柱管に入って脊髄を損傷しているからだ。 郝金凱の『鍼灸経外奇穴図譜』に、翳明は「側頭部に位置し、胸鎖乳突筋の停止部で、乳様突起下の陥中」とある。取穴は、頭を低くうなだれ、ふつう両側を取る。耳垂後ろで盛り上がった骨の下方で、耳垂と水平となり、押すと怠い痛みがある。天牖穴から約1寸離れている」とある。そして鍼は0.7~1.5寸、捻鍼法で耳の後ろへ向けて斜刺で刺入する。0.5~0.6寸ほど刺入したとき、患者に痺れ感があるか尋ねる。もしあれば、それと同時に,目が明るくなったと感じ、物がはっきり見える。30分置鍼して抜鍼する。もし感覚がなければ、さらに0.2~0.3寸ほど捻鍼で刺入する。やはり効果がなければ、中強刺激法に改め、緩い雀啄術をおこなったあと、鍼を0.3~0.4寸ほど引き上げ、再び捻鍼で刺入する。これを2~3回繰り返す。それでも効果がなければ、鍼を皮下まで後退させ、皮下でわずかに方向を変えて捻鍼する。強刺激してはならないとも主張している。 30.後頚部の穴を取って、くも膜下出血を起こした事例 某男性、57歳。右側の顔面痙攣を2年患い、外来で刺鍼治療を受ける。2回目に後頚部の穴位を取った。坐位で深刺したとき、電気ショックのような感じが一瞬で患者の頭部から右脚に伝わった。4~5分ほど置鍼して抜鍼すると、患者はめまいや悪心を感じ、1時間後に症状が悪化して激しい頭痛が始まり、続いて2度ほど嘔吐した。3時間後に頭痛が堪え切れなくなり、救急で血圧を測ったとこ25.3/14.7kPa、心拍数60回/分だった。高血圧と頭痛と診断され、検査を待った。午後にも2回ほど嘔吐した。翌日は頭痛と後頚部のこわばりが明らかにひどくなり、頚部も回せなくなった。3日目に入院した。検査:体温37.3℃、後頚部強直、ケルニッヒ徴候は陽性、ブルジンスキー徴候も陽性、膝蓋腱反射は減弱。臨床検査:白血球14.0×109/L、好中球0.90。腰椎穿刺:血性髄液で、圧力は2942Pa以上。刺鍼によるくも膜下出血と診断した。マンニトール、高張ブドウ糖液、抗生物質、そして漢方薬の安宮牛黄丸などを使って治療した。入院して5日で症状は軽減し、3週間で頭痛が完全になくなって退院した。──────陳玉珍ら『山西中医』1985;(1):47 項背部の腧穴で、深刺して患者に電気ショックのような感じがあれば、鍼尖が脊髄に達しているので、すぐに鍼を後退させなければならない。5分も置鍼しているのだから、あきらかに局部の損傷を増大させ、頭痛や嘔吐などの症状が現れた。様々な検査の結果、くも膜下出血が証明された。現代医学と漢方薬を併用して治療し、治癒して退院した。これは後頚部の腧穴、特に後正中線に近い腧穴では、刺入の方向と深度に注意しなければならないという教訓である。鍼尖を絶対に椎骨棘突起の間隙に向けてはならず、また深すぎてもいけない。鍼尖を頭蓋腔や脊柱管に接触させてはならない。 31.背部の穴を取って、くも膜下出血を起こした事例 某男性、15歳。慢性気管支炎で、上背部の脊椎間隙へ刺鍼し、抜鍼したあと穴位に5分ほど火罐(吸玉)したが、患者は背部に不快感があった。その夜、両脚が痺れて運動制限があり、後背部と後頚部が痛みだし(頭痛はない)、その日の深夜に救急で入院した。 検査:両下肢の不完全麻痺で、深部感覚が減退し、膝蓋腱反射は正常。病理反射:ホッフマン徴候が陰性、バビンスキー徴候が陽性、後頚部の強直が陽性。腰椎穿刺では血性髄液、圧力2696.93Pa。くも膜下出血と診断。 3日の治療で、ほぼ患者は回復したが、頚のこわばりは残っており、頚を曲げると少し痛い。一人で歩け、大小便も正常。1ケ月後に治癒し、後遺症もない。──────楊元徳ら『遼寧中医雑誌』1985;(8):37 15歳の少年で、身体も痩せており、刺鍼で注意していれば脊髄を損傷することもなかった。この例では、明らかに鍼尖が髄膜に達しており、抜鍼したあとで同じ部位に火罐したので、一刺一吸により突き破った傷痕を広げ、くも膜下出血を起こした。古人は「背部は餅のように薄い」と、くれぐれも深刺しないように諌めている。 背部の腧穴に刺鍼するときは、次の2点に注意しなければならない。一つは脊柱管へ刺入して脊髄を損傷させ、くも膜下出血などを起こすこと。もう一つは胸腔へ刺入して肺を傷付け、気胸を起こすこと。腰部では刺鍼が間違っていると腎臓を損傷したり、他の腹腔内臓器(肝臓や脾臓、腸など)を傷付けることである。つまり深刺すれば効果がよいというわけでなく、メリットどディメリットを知り、正確に取穴して適切な手法を使わないと、理想的な効果を上げられない。 二、臨床経験 某男性、73歳。1996年7月24日初診。突然10日前に発病し、嚥下困難で食事ができず、水を飲むとむせて咳が出る。某病院でCT検査の結果「橋梗塞」と診断され、現代医学の治療を受けて少し好転したが、やはり嚥下困難があって食べられない。そのときの診断:痩せていて、意識ははっきりしており、喋れる。鼻腔栄養。生理反射はあり、病理反射はなし。橋梗塞による仮性球麻痺と診断された。風府を主とし、大椎、廉泉、内関、通里、足三里などを配穴して刺鍼し、平補平瀉法したあと30分置鍼した。6回の刺鍼によって嚥下困難は好転し、おかゆが食べられるようになった。続いて6回の鍼で、嚥下困難はなくなり、水を飲んでもむせて咳がでることはなくなって、ふつうに食べられるようになった。さらに治療効果を安定させるため6回の治療し、半年の追跡調査では治療効果が続いている。 風府は督脈穴で、深部に延髄があるため危険穴と認められ、刺鍼事故も数多く起きている。瘂門と同じく、古代では禁穴とされていた。 『霊枢・海論』に「脳は髄の海である。その腧穴……下は風府である」とある。臨床によると脳に関係した疾患に効果があり、風府へ刺鍼すると理想的な効果が得られる。この例では病状が重かったが、風府を主穴とし、合理的に他穴を配穴して、適切な刺入深度と運鍼手法により、18回で治癒した。 昔から風府への刺鍼は、多くの重症疾患に優れた効果があると認められてきた。これを使って李氏は虚血性脳症候群125例を治療したところ、治癒と臨床治癒は70.4%、有効率は99.2%に達した[山西中医1988;4(3):37]。李定明らは急性期(病歴10日以内)の脳内出血に対して比較研究したところ、風府と瘂門の刺鍼を主にした観察群では、治癒と臨床治癒が50%に達し、著効33.6%で、死亡はわずか17.4%だった。それに対して伝統鍼法を採用して、この両穴に刺鍼しない対照群では、治癒と臨床治癒が19.6%に達し、著効17.4%で、無効と死亡は52.1%だった。二つの群を統計処理すると、非常に有意差がある(P<0.005)[中医雑誌1988;29(5):30]。 風府穴への刺鍼は治療効果が明らかだが、刺鍼の難度も非常に高くて、『席弘賦』は「従来から風府は、もっとも鍼が難しい。時間をかけて深浅を測る」と言っている。手法は一日や二日で把握できない。鍼が浅すぎると気が得られないので治療効果はなく、刺鍼が深すぎたり間違っていれば事故につながる。だから初心者は焦り過ぎず、この穴をいきなり使うことなく、手探りを繰り返し、順を追って進み、この穴を徐々に制覇してゆくことが大切である。 2.安眠と風池などの穴位へ刺鍼して不眠を治療する 211例の不眠症を刺鍼治療した。うちわけは男155例、女56例。最年少16歳、最高齢63歳。原因:貧血3例、高血圧10例、冠動脈疾患11例、低血圧14例、薬を長期間服用して不眠になり、薬を止めた後も治らないもの18例、ほかに慢性疾患を長いこと治療し、治らなくて起きたもの39例、神経調節機能が失調したり精神的な原因で起きたもの116例だった。重症者(一晩中眠れないときがあったり、いつもの睡眠が2~4時間。また症状の重いものなど)58例、中度の者(毎晩4~6時間の睡眠か、一晩で2~3時間しか眠れないことがよくあり、随伴症状を伴う)122例、軽症者(毎晩5~7時間は眠れるが睡眠の質が悪い。あるいは一晩に3~5時間しか眠れないこともあり、睡眠不足の感じがする)31例。 安眠、風池、百会、印堂などから2~3穴を取り、軽く捻転して長いこと置鍼する。普通1~2時間は置鍼する。夕方になってから毎日1回治療し、5~10回の治療を続けて1クールとする。 治療結果:軽症31例のうち、正常な睡眠を回復したもの22例、著効4例、好転2例、改善なしや再発したもの3例。中等度122例では、正常に回復したもの71例、著効15例、好転、無効18例。重症者58例のうち、正常に回復したもの19例、著効21例、好転8例、無効10例。全体の治癒率は53%、全体の有効率は85.3%だった。211例のうち、もっとも治療回数の少なかったのは4回、最多は49回、平均8.9回だった。 不眠症では一般に安眠や風池などの穴位が多用されるが、術者の操作が間違うと、脳幹やクモ膜下に出血させて事故につながる例が非常に多い。 安眠穴には安眠1穴と安眠2穴など4穴あり、いずれも風池の傍らにあって、神経衰弱や不眠、頭痛を治療する要穴である。一般に1寸程度の直刺だが、刺鍼が深過ぎて、手法が強すぎれば、深部の延髄を傷付けやすい。この例では安眠、風池、百会などを主とし、211例の不眠患者を治療したが、操作方法が正確で、きちんと治療されていたので、53%の治癒率が得られ、有効率は85.3%の好成績だった。 著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より) 劉/玉書 元中国中医学会編集学会顧問。元内モンゴル中医学会常任理事。略歴―1980年『ユーカリ葉の応用ならびに羚羊角と同じ効果を持つ薬物を伐す』モンゴル自治区科学技術成果賞受賞。1996年『内モンゴル医学史簡略』モンゴル科学技術情報成果三等賞受賞。1997年中国期刊編集銀牛賞受賞 淺野/周 中国医学翻訳家。鍼灸師(北京堂鍼灸)。略歴―1985年学生時代に三寸三番を使った大腰筋刺鍼を開発。1987年明治東洋医学院鍼灸科卒。1990年北京中医学院針推系進修生修了。1990年北京堂を開業。1998年北京堂ホームページを開設。治療法を公開。三寸鍼を使った大腰筋刺鍼で知られている。胃下垂を治せる針灸師として有名(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)以下は、刺鍼事故―処置と予防に関する最も有用なレビューの一部です。 この本を購入する/読むことを決定する前にこれを検討することができます。
鍼灸の専門学校では、鍼で事故を起こさないように言われますが、具体的にどういう恐いことが起きるか、またどうしたら未然に防げるかは教えてくれません。そういう意味でこの本は良き先生となるでしょう。良い治療効果だけを知るのでなく、悪い結果も知っていた方が臨床に携わるものとして現実的です。鍼灸発祥の国から学ぶことがたくさんあるということを教えてくれます。事故例だけでなく効果のあった治療例も載っており、この業界ではなかなか見られない貴重な本だと思います。

刺鍼事故―処置と予防の表紙

によって 劉 玉書

5つ星のうち (5 人の読者)

ファイル名 : 刺鍼事故-処置と予防.pdf


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